【第3回】スペシャルオリンピックスが変える、スポーツと社会の関わり方 

2020年の東京オリンピック・パラリンピックが近づく中、スポーツ界では競技性だけでなく「社会的インパクト」が強く求められてきている。そのような状況の中、独自の活動で注目を集めるのが、スポーツを通して知的障害のある人々の社会参加を応援する国際的なスポーツ組織「スペシャルオリンピックス(SO)」だ。SOを日本で率いる有森裕子氏に、運営に携わった経緯と今日までの歩み、マラソンを通して育まれた自らの人生観、そしてスポーツが持つ大いなる可能性と希望を伺った。

スペシャルオリンピックスの究極の目的は、知的障害のある人たちに対する固定観念を打破することにあると有森氏は喝破する。3回目では、その活動がいかに一般企業やスポーツ団体にも影響を及ぼしつつあるかについて伺った。

前回インタビュー:【第2回】スペシャルオリンピックスが、真に『スペシャル』な理由

社会的活動がアスリートに与える、意識の変化

有森 裕子:公益財団法人 スペシャルオリンピックス日本 理事長。マラソン選手としてオリンピック2大会でメダルを獲得するなど活躍後、現在はIOC委員や日本陸上競技連盟理事も兼務。国内外でスポーツを通した社会活動に取り組む。

――これまで知的障害のある人たちに対する意識を変えていくことに取り組んできたわけですが、企業側が雇用環境を整えつつある動きも見られます

「例えば『障害者雇用』という言葉があるじゃないですか。それは言葉を換えれば、企業の側が、この人たちは障害があるんだと勝手に思い込んでいるということに他ならない。でも実際には、その種の固定観念こそが、社会参加の大きな障害になっているんです」

「しかも、そのことに対する気づきがないから、社会全体がなかなか変わっていかない。『どうすればいいだろう』とか、「別に会社をつくらなきゃ」とかいろいろ考えているうちにややこしい話になって、『もういいや、政府に寄付をしちゃえ』という発想になるわけです」

「でも実はそうじゃなくて。知的障害のある人たちも、本当はいろんなことができるし、大きな可能性を持っているんです」

――スペシャルオリンピックスは企業だけではなく、スポーツクラブや団体とも有機的に連動していますね

「アスリートも、知的障害のある人たちと一緒に活動をすることによって、人間的にさらに成長したり、元気になったりしますから。まず、自分たちが能力や機会を与えられているのは有り難いことなんだということがわかるので、競技にさらに全力で取り組むようになる。それと同時に他の人に優しく接したり、コミュニケーションを取るための努力もしたりするようになるんです」

「こういう変化は、(社会的な貢献とは別に)競技そのものにものにもプラスになる。そういうメリットを感じてもらえているからこそ、例えばBリーグやJリーグの選手なども、私たちのプログラムに積極的に協力していただいているんでしょうね」

企業の社会的な価値と共鳴し合う、スペシャルオリンピックスの理念

エニタイムフィットネスは2016年からのパートナー。チャリティランやユニファイドサッカー、チャリティスクワットなど、多様なコラボレーションを行う。写真提供:スペシャルオリンピックス日本

――スポーツ関連では、フィットネスクラブの「エニタイムフィットネス」などとも連携しています

「エニタイムフィットネスさんは、一般の人たちの健康づくりをコンセプトに事業を展開していますし、社員の皆さんも、健康というものを前面に打ち出している。ただし企業としては、ジムでのトレーニングといったレベルを超えた、もっと大きな社会的な意義を追求されている。その部分が私たちと合致したと思うんです」

――本質的な価値の部分で、共鳴できている

「もちろん企業の場合は、ビジネスとして成り立たせて、収益を上げていくということも必要になりますが、事業として成功させていくためには、やはり最終的に揺るがない大事な価値観が必要になってくる」

――最も重要な理念や価値がないと、やはり本質的なものは生み出せない

「その点で企業さんの側も、自分たちが追求してきた信念や、スポーツに見出してきたのと同じ価値観を、スペシャルオリンピックスにも見出してくれたんだと思います」

「私たちに関わっていただくことによって、企業さんも社会的な意義や価値をより明確な形で打ち出していけるようになる。様々な経営者の方と話していても、私たちが持っているそういう特徴を感じていただけているのかなと思うことは多いですし」

海外スポーツにあって、日本のスポーツになかった「社会性」

――スポーツを介して、各企業が持つ社会的な価値や意義も高めていけると

「やはり海外の場合は、そもそもスポーツの価値がそこにあるんです。スポーツをするというのは社会性を持つということとイコールなので、アスリートがボランティア活動をごく当たり前にやる時期があるし、慈善活動などの社会貢献も含めて、初めていい選手なんだよと評価される形になる」

「これは一般の人が参加するマラソン大会も同じで。もちろん東京マラソンなどは、今ではチャリティや社会的な意義がしっかりと中心に据えられるようになりました。でも日本の場合は、どこかの団体が大会を企画して、そこにビジネスが絡み、最後の最後にチャリティがようやく入る形が多い。だから参加される方の間でも、「何時間で走ったの?」とか「どこのコースを走ったの?」ということが、まず話題になるケースが多いじゃないですか」

――たしかに日本のスポーツの大会は、社会的な活動だという意識が希薄になりがちです

「でも、向こうはそうじゃなくて。『マラソン大会に参加したよ』と言えば、『え、なんのチャリティをしたの?」という話題になる。その意識はまるで違うんですね。例えば今ではほとんどのマラソン大会で、ランナーズエイドという活動がなされている。走るだけで参加フィーの一部がチャリティに行く仕組みなんですが、こういう仕組みを簡単にポンとできたのも、たぶんランニングが最初だったと思うんです」

「これはニューヨークマラソンなどの成り立ちも同じで。そもそも何万人集めようとか、ニューヨークの街を走りたいという目的から始まっているわけではなくて、癌で苦しむ人たちのためにチャリティ活動をしたい、みんなでメッセージを送るためには、何かできないだろうかという趣旨から始まっている。だからこそニューヨークマラソンは、絶対になくならない。癌がこの世にある限り、ずっと続いていくんです」

社会的な意義を持つ組織や活動、イベントだけが真のスポーツ文化として根を下ろし、永続していくことができると有森氏は説いた。次回は驚異的なボランティア動員力と、スペシャルオリンピックスならではの組織運営の難しさについて伺う。

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