サッカーの母国で「メジャーリーグ」開催――MLBロンドンシリーズが示す野球の国際化戦略

MLB史上初のヨーロッパでの試合が、英国ロンドンで6月に開催。国外にさらなる活路を見出そうとしている。

MLBが進める野球の国際化戦略

アメリカ・メジャーリーグ(MLB)の2大チームである、ニューヨーク・ヤンキースとボストン・レッドソックスは、6月29日と30日に、MLB史上初となるヨーロッパでの試合を英国ロンドンで開催した。

MLBによるシーズン中の国外での試合開催は、新たなマーケット開拓のための取り組みとして位置付けられており、過去にはオーストラリア、日本、メキシコ、プエルトリコで実施されている。今年だけでも、3月には日本でシアトル・マリナーズ対オークランド・アスレチックス戦を、5月にはメキシコでヒューストン・アストロズ対ロサンゼルス・エンゼルス戦を実施した。日本での開催はイチローの引退で幕を閉じたことも記憶に新しい。

ロンドンでの開催は「MLBロンドンシリーズ」と名付けられ、MLBとしては今年3度目の国外試合となった。野球の母国からサッカーの母国へ乗り込んだ形だ。

近年のアメリカでサッカー人気が高まっているのは、岡部恭英氏(TEAMマーケティング/Jリーグアドバイザー)が以前HALF TIMEに寄せたコラムでも指摘した通りだ。多くの登録選手数を誇るだけでなく、デビッド・ベッカム、ズラタン・イブラヒモビッチ、ウェイン・ルーニーなど、ヨーロッパを主戦場にしていた有名選手がアメリカのサッカーリーグであるMLSへの移籍が相次いでおり、スタジアムやテレビでの観戦を後押しする。

一方で、従来の米4大スポーツの一角である野球は、国内での人気に陰りが見え始める。米『FOX Business』は、2019シーズンのMLBの総入場者数は昨年比1.3%減となり、4年連続で前年割れとなるというという米スポーツマーケティング・エージェンシーTwo Circleの予測を紹介している。MLBが野球を一部の地域のみでプレーされるスポーツから、グローバル・スポーツにしたい背景は鮮明だ。

観客動員は2試合で約12万人 盛況のロンドン開催

そんな中、「サッカーの母国」での野球の試合開催は、蓋を開けてみれば大盛況だった。入場者数は2試合で11万8,718人、1試合目に限れば5万9,659人であったことを英『Sport Industry Group』が報じている。

約6万人という1試合目の入場者数は、MLBのシーズン中の試合としては、2003年9月28日に行われたサンディエゴ・パドレス対コロラド・ロッキーズ戦の6万988人に次ぎ、2003年以降で2番目に多い。また、米『ESPN』の2018年MLB来場者数レポートによると1試合あたりの平均入場者数の1位はロサンゼルス・ドジャースで4万7,042人。MLBロンドンシリーズの集客がどれ程盛大だったかが分かる。

これは、野球人気の高い日本と比べても引けを取らない。今年の3月の日本での入場者数は2試合合計で9万2,238人であり、MLBロンドンシリーズはこれを2万6,000人以上も上回ったこととなる。また、MLBロンドンシリーズのチケット購入者は70%がイギリス在住者、20%のチケットがアメリカ在住者、残り10%がその他の地域在住者となり、現地での集客に成功したことも明らかになっている。

イギリスの元野球代表GMであるジェイソン・グリーンズバーグ氏が「イギリスで(トップから草の根までの)全レベルを合計すると、野球の競技人口は約5,000人だ」と2013年にBBCに語り、現在イギリス野球連合会(British Baseball Federation)によると1,500人程しか競技人口のないイギリスの野球界にとっては、今回のMLBロンドンシリーズのインパクトは大きい。

MLBロンドンシリーズを放映した英『BBC』では、試合当日にの「MLB London Series: All you need to know about New York Yankees v Boston Red Sox(MLBロンドンシリーズ:ニューヨーク・ヤンキース対ボストン・レッドソックス戦でこれだけは知っておくべきこと)」という記事を展開し、野球について知識が豊富でないイギリス市民への啓蒙も行っていた。

プレー環境などに課題 来年に活かせるか

MLBロンドンシリーズの2試合が行われたロンドン・スタジアム(旧オリンピック・スタジアム)は、2012年のロンドンオリンピック閉会後に改修され、現在はイングランド・プレミアリーグのウェストハム・ユナイテッドが本拠地としている。以下の通り、本来野球を開催する機能が備わっている訳ではない。

London stadium
ロンドン・スタジアムの普段の様子。撮影=横井良昭

そのためグラウンドは、MLBロンドンシリーズに合わせて期間限定で作られたものとなった。過去のMLBの海外シリーズが、オーストラリア、日本、メキシコ、プエルトリコなどで野球専用スタジアムを保有する国で開催されたのと比べ、それらとはハード面が異なるのがMLBロンドンシリーズの大きな特徴と言える。

以下の動画では、ロンドンスタジアムがどの様に生まれ変わったのかを説明している。既存のサッカーフィールドの上に野球のグラウンドを作ったことが伺える。

Guardian - Yankees v Red Sox: London Stadium turf transformed for baseball game

尚、MLBロンドンシリーズでは、ニューヨーク・ヤンキースが1試合目に17対13でボストン・レッドソックスを破ると、2試合目も12対8で勝利しヤンキースの連勝で幕を閉じた。前述の通り盛況な入場者数を収めた一方、試合中は選手がスタジアムの環境に戸惑う場面も見られ、プレー環境についての課題を残したのも事実だ。

MLBロンドンシリーズは2019年から2年契約のため、来年2020年には6月29日と30日にセントルイス・カージナルスとシカゴ・カブスのカードで2試合が開催されることが既に決定している。「目新しさ」を過ぎた2年目が、サッカーの母国で野球が認められるかどうか、重要な年となるのは間違いない。

さらには、MLBが今年のMLBロンドンシリーズの実績をもとに、次年のロンドンやその他ヨーロッパでどのような国際戦略を進めていくのか、ますます目が離せなくなるだろう。

◇参照

FOX Business

Sport Industry Group

ESPN

BBC

British Baseball Federation