【前編】北海道の「地域の価値」創出へ、スポーツの影響力も実感――リージョナルマーケティング代表取締役 富山浩樹氏

北海道の人と企業をつなぐプラットフォームを通し、地域全体での価値創出を目指すリージョナルマーケティング。北海道札幌市に本社を置くドラッグストアチェーンのサツドラホールディングスを母体に、コミュニティやメディア事業、共通ポイント「EZOCA」を展開する同社において、ビジネスを飛躍させるきっかけの一つが「スポーツ」だった。「地域での仲間作り」をコンセプトに、北海道ならではのスポーツ活用を行う富山浩樹代表取締役に話を伺った。

地域に価値を置くことで生まれたEZOCA

Hiroki Tomiyama
EZOCA
富山 浩樹:株式会社リージョナルマーケティング代表取締役。大学卒業後、日用品卸商社に入社。その後2007年株式会社サッポロドラッグストアーに入社。2013年に株式会社リージョナルマーケティングを設立し、共通ポイントカード「EZOCA」の事業をスタート。2015年5月に代表取締役社長に就任。2016年より新ブランド「サツドラ」を推進。同年8月にサツドラホールディングス株式会社を設立し代表取締役社長に就任。

「地域が輝くプラットフォーム作り」をビジョンに掲げ、地域マーケティングを行う株式会社リージョナルマーケティング。ドラッグストアチェーン「サツドラ」から出資を受け、共通ポイントカードサービスをはじめ地域に根付いたビジネスを展開する。都市と地方の経済格差を無くすことを目的に標準化された価値を地方に展開する一般的な全国チェーンストアとは違い、徹底的に“地域の良さを活かす”という発想から生まれた。

「小売店の役割を考えた時に、地域ならではの良さを活かすためにどうしたら良いのかという発想から入りました。(一般的な)お店づくりの価値とは違う部分に目を向けた時に、必然的に、人、企業、自治体とあらゆるものが“つながる”ということを考えました。」

Tポイントなど全国に展開するポイントサービスと提携するのではなく、地域にとっての価値や顧客にとっての意味に重きに置き、独自のポイント経済圏を確立。サービスの中身も価格帯も全国的なサービスがフィットせず、それを必要としない地元企業の課題に寄り添うことでEZOCAが始まったと富山氏は語る。

「ローカルでは小さ過ぎる、そして全国ではフィットしない。そういった(地域という)新しい経済圏に特化することで新しい価値を生み出せるのではないかと思い、リージョナルマーケティングを発足しました。全国サービスではない地域ならではとして、人と企業を繋ぎ、コミュニティを作っていくことを重要視しています。そこで新しい価値を生み出していくことを目指します」

EZOCA

主力事業はポイントカードのEZOCA、コミュニティ機能を持つEZO CLUB、そこから派生して『EZO CLUBマガジン』も発行する。EZOCAは「お得」や「便利」といった実利的な価値をもたらすツールとして位置づけ、EZO CLUBでは「つながる」、「楽しい」といった情緒的な価値を生み出している。

例えば、ママさんのコミュニティが存在するがイベントを行うスペースがない場合、そのスペースを提供できる企業とのマッチングを行い、コミュニティの活動を応援していく。『EZO CLUBマガジン』では自治体とも連携し、地域やコミュニティの情報を掲載。保育園や幼稚園でも配布し、北海道では『ホットペッパー』に次ぐ、発行部数約14万部のフリーマガジンにまで成長した。

「(EZOCAという)ポイントカードはあくまでも道具で、地域、企業、人をつなげていく機能をどんどんやっていこうとしています。コミュニティマネージャーの働きや手間がお金を生み出すわけではなく、地域での取り組みです。EZO CLUBはマネタイズのモデルではありません」

「ですが、このように(コミュニティを)つなぐことによって、そこに企業が関わり、EZOCAやサツドラに(ビジネスとして)つながっていきます。地域プラットフォームとして、有利に事業が出来るのではないかと思います」

北海道の世帯普及率は約60%に。今後は「エンゲージメント」を強化

EZOCA

約700店舗、180万人超にリーチするプラットフォームとなったEZOCA。北海道の世帯普及率は約60%にまで拡大している。これからは普及率だけではなく、エンゲージメントを高めていく段階だ。

「プラットフォームとしての普及率は他に負けないぐらいになってきていますので、これからは今作っているコミュニティの中身を活性化させていこうと話しています」

EZOCAでは一層企業や店舗の参画を促し、EZO CLUBでは250ほどの登録コミュニティがより活発に活動し、企業と協働していく機会を作っていきたいと富山氏は語る。

前述の主力事業以外で、現在最も成長率の高いのは決済事業だ。2年半前からQR決済を含めたマルチ決済を行える端末の普及を進めており、道内では約4000店舗まで導入が拡大している。

「EZOCAのようなオリジナルブランドだけを(地域に)提供するというよりは、全国やグローバルに出てくるサービスを、タイムラグ少なく地方でマルチに提供していく会社になりたいと思います」

売上高ベースではEZOCAが大きい一方、サービスの導入店舗数はQR決済サービスが一気に上回った。今後も個人店舗や小規模店舗、期間限定のイベントなどでスマートフォン決済の需要が伸びることを見越し、主力事業の一つにしていきたい考えだ。

今後は地域貨幣なども視野に入れながら、コミュニティ、メディア、共通ポイントカードなどを組み合わせ、地域経済圏を一層拡大していく構想を描く。

世界共通言語の「スポーツ」 インバウンド獲得にもメリット

Hokkaido consadole Sapporo
Chanathip Songkrasin
2017年から北海道コンサドーレ札幌に所属するチャナティップ・ソングラシン。画像=daykung / Shutterstock.com

サツドラホールディングスは、インバウンドマーケティングを専門とするVISIT MARKETING株式会社にも出資する。地域マーケティングを行うリージョナルマーケティングにとっては兄弟会社のような存在だ。

海外向けのSNS運用と企画を仕掛ける同社は、「リージョナルマーケティングのインバウンド版」と富山氏は言う。インバウンドの事業で培ったノウハウや人脈を活用し、北海道だけでなく、日本の地域や企業が海外需要を取り込む支援を目指す。この点で、海外でも「共通言語」となり得るスポーツが持つ役割は、非常に大きい。

北海道に拠点を置くスポーツクラブは海外とも縁が深い。プロ野球の北海道日本ハムファイターズでは長年、台湾出身の陽岱鋼(ヨウ ダイカン)が活躍し、今年から同じく台湾出身の王柏融(ワン・ボーロン)が在籍する。サッカーのコンサドーレ札幌にはタイ出身のチャナティップ・ソングラシンがチームの中心として活躍する。北海道でタイを中心に東南アジアからの観光客が増える中、チャナティップの訴求力を実感する機会も増えてきているという。

富山氏は、北海道のスポーツクラブが外国人選手を獲得し、選手が活躍することでの効果について、「北海道に投資をしたいという企業も増えてきています」と語る。スポーツでの注目度をフックに、海外でその国を代表するナショナルブランドが北海道に進出する際、地域との関わりが深いリージョナルマーケティングにとってはチャンスが生まれてくる。地元人気という点でも、海外からの注目度という点でも、「地域」に注力するリージョナルマーケティングのような企業と、スポーツの相性は良い。

後編では、リージョナルマーケティングの事業成長に向けたスポーツ活用の取り組みについて、現在展開されている実例をもとに、引き続き富山浩樹代表取締役に伺う。

(記載のない限り写真=株式会社リージョナルマーケティング)


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