【第2回】Bリーグはなぜ“バスケットボール外”の人材を積極登用するのか?

「日本では人気が出ない」とされていたバスケットボールの認知度を飛躍的に高め、アリーナに足を運ぶファンを増やしているBリーグ。立ち上げ期からプロジェクトに参画した現Bリーグ常務理事・事務局長の葦原一正氏は、新リーグ成功の要因に「人」を挙げる。人材=人財。明確なビジョンを掲げた組織はどのような「人」によって作られていったのか?

前回インタビュー: 【第1回】葦原一正が語る3年目のBリーグ「本当の勝負はここから」

スピードと確実性重視の立ち上げ期は経験者採用

Kazumasa Ashihara
Japan Professional Basketball league
葦原 一正:公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ常務理事・事務局長。インタビューは2019年4月15日にBリーグの都内オフィスで行われた。

「全てを創り上げるのは人ですからね。当たり前ですけど“人”です」 

コンサルティング会社から日本のプロ野球団で事業戦略立案、ブランディング、プロモーションなどに携わってきた葦原氏が、Bリーグに参画したのは2015年。日本の男子プロバスケットボールの新リーグをつくるという一大事業に対して、与えられた時間はごく僅かだった。 

「準備期間は1年。ここまでの道筋をつくってこられた川淵三郎さんが、Jリーグを立ち上げた際は、5年かけていることを考えると、Jリーグの5倍のスピードでやらなくてはいけませんでした。正直、『間に合わないかも』と思うことも何度もありました」 

Bリーグの見据えた目標は、単にバスケットボールのプロ化、プロリーグの誕生ではなかった。経営戦略を明確にし、「稼げる」リーグをつくる。そのために必要なのが、戦略を実現する「人」だった。 

「『当たり前』と言ったのは、一般企業でも全く一緒だからです。売る物が有形か無形かの違いだけであって、戦略を立てて実行に移すことが大切ですけど、それを『誰がやるか』はもっと大事。もう、そこは一番大事ですよ」 

タイムリミットが決まっている中、葦原氏が積極的にリクルートしたのは、いわゆる“即戦力”だった。 

「必要な人材は、フェーズによって変わります。とにかく時間がなかった立ち上げ期は、スポーツ業界経験者を比較的多く採りました。バスケ界もさることながら、野球、サッカーといったプロリーグの先行事例を経験した人材です。特に意識していませんでしたが、部門によって必要な人材の色合いが違っていたとは思います」

「例えば、競技ルールの策定に関わる人は、安全性のためにもバスケ経験者から。リーグの規約、ガバナンスの管理系の部分はサッカー界から。これはJリーグの規約、ライセンスのルールがしっかりしているというのが念頭にありました。逆にビジネスサイドは、野球界、特にパ・リーグが先進的な取り組みを成功させていたので、そこに関わった人となりました」 

現在に通じる“スポーツ外人材”採用 広報は「知らなくていい」

葦原氏は当時の採用活動を「スピード重視。加えて、確実性を強くしたかった」と振り返る。一方で、意識的に“スポーツ外”を重視した職種もあった。その代表格が広報だ。 

「スポーツ界以外からの採用を意識したのは、広報です。広報はスポーツ界経験者で固めてしまうと、どうしても選手をブロックする方向に行きがちです。Bリーグでは、当初からライト層へのアプローチを課題にしていましたから、スポーツ界にはない柔軟な発想を期待して、バスケットボールやスポーツをいい意味で知らない、外の人材を採用しました」 

人材配置の妙もあってか、Bリーグは、野球、サッカー以来なかなか出てこなかったプロスポーツリーグの第三世代の旗頭として、スポーツビジネスに風穴を開ける存在になった。3年目のシーズンを終え、新たなフェーズに入ったBリーグだが、求める人材はどのように変化したのだろうか。 

「いまはもう業界経験は不問ですね。経験は要らないです。むしろ新しい人にどんどん来て欲しい。ゼロイチの立ち上げと、1から2、3、4と成長していくフェーズでは、必要な人材も当然変わってきます」 

スポーツ界では、競技経験者がそのまま運営に携わるケースが多く、選手時代の成績・実績が重視されがちだ。しかし、「名選手、名監督に非ず」の格言にもあるように、優れた選手が優れた監督、優れた経営者になれるとは限らない。 

「経験不問ということは、選手、業界経験があってもなくてもいいということです。あらゆる要件が揃っていて、尚且つ元選手なら当然活躍の場はあるでしょう。優秀な選手はいますからね。ただ要件を満たしていないのに、選手だから採用するというのは絶対にありません」 

Bリーグ、そして、新時代のスポーツビジネスに必要な人材は、至るところにいるということだろう。では、葦原氏はリーグのこれからを担う人材にどのような期待をしているのだろうか。

リーグか? クラブか? 競技の違いより関わり方が問題だ

Kazumasa Ashihara
Japan Professional Basketball league

「バスケットボールなのか、野球なのか、サッカーなのか。多くの人が競技で関わるビジネスを選ぼうとしていますけど、それよりも『リーグなのか?クラブなのか?』を意識した方がいいと思います。リーグとクラブは、ビジネスにおいて質的に違います。ファンマーケティングをやりたいなら、クラブに行った方がいい。お客さんが入った、入らない、試合に勝った、負けたと、分かりやすく目に見える結果が出るので、モチベーションコントロールがしやすいんです。一方、リーグ運営はというと、つまらないんですよこれが(笑)」 

葦原氏は自らが携わるリーグビジネスを「つまらない」と言って笑った。その理由はこうだ。 

「リーグはクラブと違って、どのクラブが勝っても、どんな選手が強くても、常に公正でないといけません。協会は日本代表があるのでまだ勝ち負けがありますが、リーグは全くありません」 

若者に進路の助言を求められたとき、葦原氏は決まってこの話をするという。 

「私がいつも言っているのは、仕事に楽しさを求めるんだったらクラブへ行きなさい、ということなんです。ですから基本、クラブに行きなさいと言っています。ただし、大きく変革したいんだったら、リーグじゃないと変えられない。そこにやりがいを感じるなら、ぜひリーグに来て欲しい」 

リーグかクラブかの差は、競技の差よりも大きい。バスケが好きだからBリーグ、サッカーが好きだからJリーグで働きたいというモチベーションは間違いではないが、「好きなこと」と「できること」、「しなければいけないこと」は全く別物だと葦原氏は言う。 

「面接で多いのが、バスケ好きをアピールしてくる人。それ自体は悪いことではありませんが、やりたいこととできること、しなければならないことを混同してはいけません。やりたいことは趣味、できることは特技、しなければいけないことが仕事です。スキルセットは気にしますが、一番大切なのは、リーグやバスケ界、スポーツ界の本質的な課題をどう見て、どうしなければいけないと考えているか」

「これを整理して話していただけると、なるほどと思いますが、8割の方はバスケ好きオーラを出すことに終始してしまっています。極端なことを言えば、ボールが大きかろうと小さかろうと、ビジネスとして取り組む分には変わらないですよ。それよりもリーグか、クラブか、自分が何をしなければいけないのかを考えた方がいいと思います」 

2020年以降のBリーグ 新時代に求められる人材とは?

立ち上げから定着、そして更なる発展を目指すBリーグが「しなければいけない」ことは何か。「人がすべて」と言い切る葦原氏が考える、次フェーズのリーグで求められる人材についても詳しく聞いた。 

「大きな考え方として、国際戦略が今後ますます重要になります。2016年にBリーグが発足し、2020年までは国内重視で、まずは足腰を固めなくてはいけません。その先は、アジアを含めたグローバル市場にどう打って出るかがテーマになるでしょう」

「現在のB1のアリーナでも、収容に対する来場比率が7割を超えているので、早晩、キャパシティが問題になると思います。当然新しいアリーナの話も出ますが、国内需要の後は海外のマーケットにも目を向けなければいけません。アジアのバスケットボールリーグで一番成功しているのは恐らくBリーグなので、アジア最高峰リーグとしての地位を活用したいですね」 

アジア・グローバル戦略に目を向ける葦原氏の視線の先には、やはり「人」がいる。目指すはグローバルでの「2番手集団」。Bリーグの進化はまだまだ続きそうだ。 

「バスケットボールのプロリーグは、世界的に見てもNBAが突出していて、2番手集団がありません。我々が2番手集団に行くためには、“国際人材”が絶対に必要不可欠です。Bリーグがこれから求める人材の1つは、語学力も含めた国際人材です」 

「人がすべて」と語る葦原氏に、Bリーグが求める人材に焦点を当て話を聞いた。第3回となる次回は、スポーツビジネスの第3局としてのBリーグについて話を伺う。


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