Bリーグ福岡(2)「普通のこと」ができなかった経営・フロント。クラブ永続のため必要な改革とは 

改善できなかった「オーナーへの依存体質」

私が社長に就任した2018年3月当初、クラブの経営状態はお世辞にも良好と言えるものではありませんでした。期末の6月まであと3カ月という段階で、収支予測は2,000万の赤字。マイナス収支を前提とした状態で引継ぎを受けたというのがスタート地点でした。

実務を始めてすぐに、この収支予測も現実的ではないことに気づかされます。Bリーグ参入当初から、最終的にはオーナーが損失分を補填するという暗黙の了解がクラブ内にあったため、期首の予算計画、収支計画は現実味のない、厳しい言い方をすれば『数字遊び』のような状態だったのです。

現実問題として、収支を細かく掘り下げていくと、期末までのマイナス分は8,000万円、結局最後は、オーナーに補填してもらうしかないという体制でした。2017-18シーズンの支出は4億円近く。対して収入は僅か1億円弱。不足分はオーナーに依存するといういびつな体質。

「まず、これをなんとかしなければ」

クラブ経営の健全化は急務でしたが、同時にクラブの戦うフィールドがB3からB2、B1へとステップアップしている急成長のまっただ中でもあり、キャッシュフローを直ちに改善するのはあまりに高いハードルでした。

それができなかったのは私の力不足ですが、2018-19シーズンはオーナーへの依存割合を減らしつつ、B1に挑戦する、3年後にはオーナー負担をなくすという体制をクラブ全体で目指した決意のシーズンでもありました。

結果から言えば、私たちの思惑はもろくも崩れ去りました。移籍金、エージェント費用、遠征費用の負担増、そのほかにも想定していなかった支出が続きました。B1昇格による支出増分の見立て、予算見通しの甘さは真摯に反省し、向き合っていかなければならない事実です。支出が増えたことでキャッシュフローが悪化し、結局フロントの人員の多くがその対応に追われ、オーナー依存脱却の要でもある新規スポンサー獲得のための営業に集中できなかったことは、結果的に見れば見通しの甘さと因果関係にあります。

「普通のこと」を「普通にできる」環境づくり

ライセンス停止の危機というショッキングな出来事ばかりがクローズアップされてしまうのは仕方ありませんが、一方で3カ年計画も徐々に成果の芽が出始めていたことも事実です。

数字の面で言えば、2017-18シーズンには1億円弱だった収入が、2018-19シーズンには3億円に。クラブ収入にとって意外に大きな割合を占めるグッズ販売は、500万円以下から1,600万円超へと成長しています。

特にグッズ販売での成果は、クラブが戦略的に動き始めた、目に見える成果として評価しています。bjリ-グ参入から数えてもわずか十数年の歴史の中で、クラブのブランドの柱であるロゴが何度も変わってきたことは、単にロゴの問題ではなく、クラブの方針に一貫性のないことの現れのように思えました。

Bリーグで確固たる地位を築くための最初の一歩は、ロゴの刷新とクラブブランドの方向性を固めることでした。「バスケっぽさ」に固執せず、高いファッション性と汎用性を兼ね備えたシンプルなロゴをデザイナーに依頼し、そのデザイナーにクリエイティブ監修を一手に引き受けてもらうことで、グッズやユニフォームなどにも一貫性を持たせるように意識しました。

ここまで聞いて、「当たり前のことだ」という感想を持った方もいるかもしれません。スポーツクラブの経営という“スポーツビジネス”の枠に捉われてしまうと、ビジネスの鉄則やブランディングの常識から離れた、特殊な現場にいるような感覚になることがあります。

私が就任当初からクラブのフロント人材に言い続けていたのは、「普通のことを普通にやってみよう」ということでした。

「普通のこと」の一番象徴的な例が、アリーナでのアルコール販売でした。就任時に疑問に思ったのが、「なぜアルコール販売をしないのか?」ということでした。社員に聞けば「条例で決まっているので無理です」という返答。どういう条例なのか納得が行かず、直接行政に問い合わせると、やはりそんな条例は存在しません。

いつ、誰が、どこに聞いてそういう答えが生まれたのかはわかりませんが、「条例で無理」という誤った思い込みが現場の硬直を生んだ一つの例です。

結局、私の就任後、クラブとして初めて福岡市内の試合でアルコール販売が開始されることになるのですが、いまではその「普通」を疑問に思う人はいません。普通に生じた疑問を普通に聞ける、普通の感覚で感じたことを普通に実行できる。クラブに「普通」を持ち込むことが改革の第一歩になったのです。

アルコール販売の件を例にとるまでもなく、「無理」という言葉が足かせになっていることも明らかでした。社員には「無理」という言葉を禁句にし、「したいこと」と「できる方法」を考えてもらうようにしました。

地域密着への下地 クラブを永続、安定成長させるために

もう一つ、テコ入れによって大きく変えたのは、アリーナのエンターテイメント部分です。長年検討され続け、なぜか実行に移されていなかったマスコットを誕生させたのを皮切りに、通常のBクラブで見られるチアリーディングチームだけではなく、オフィシャルダンス&ボーカルユニット『RZ(アールゼット)』を結成。ライト層や非バスケファンの取り込みを模索しました。

その他にも、試合会場にエア遊具などを設置したキッズエリアを設け、親子で安心して観戦できる環境を用意したり、アリーナの装飾、照明に手を入れ、会場の雰囲気を高めるなどの「普通」の努力を生み重ねました。

B1参戦というインパクトも手伝って、入場者数は前シーズン比125%の約2,200人まで伸ばすことができました。この伸び率はB1・B2の36クラブの中ので最も高い伸び率でした。

昨シーズンまでは所謂「タダ券」での入場者も多く、有償入場者の割合が約35%という寂しい状況でしたが、これを80%に引き上げることに成功しました。これもごくごく普通のことですが、有償の入場者数増加により、チケット収入は前年の倍以上、1億円の大台に達しました。

当初の目標には届かなかったスポンサー収入も、前シーズンとの比較でいえば4倍近い1億2,500万円。まだまだ十分とは言えませんが、これまでとにかく大物狙いだった営業戦略を改め、規模を問わずクラブを支えてくださる地元企業へのアプローチを充実させることで明らかに手応えが変わっています。

地域貢献と収入の両面があるスクール事業も当初の2校から5校へ、チアスクールも開校し、地域に根付くプロバスケットボールクラブとしてようやく「普通」のことができるようになってきたという段階です。

2018-19シーズン終盤での資金ショート、ライセンス停止危機は大きな反省材料ですが、前に進むためには反省点と成果をしっかり切り分ける必要があると考えています。

収入源を維持しつつ、中期的な成長をうながす施策を効果的に打っていくことが、早期のB1復帰、クラブの永続、安定的成長への近道だと信じて、今日も努力を続けています。